立教セカンドステージ大学こそ我らが誇り(2018年度入学式)
2018年4月3日
立教大学総長
立教セカンドステージ大学学長
郭 洋春
立教セカンドステージ大学に入学の「新入生」の皆さん。ご入学おめでとうございます。立教セカンドステージ大学は2018年に創立10周年を迎えます。さらに2018年は池袋キャンパス100周年の年でもあります。これら記念すべき年に入学された皆さんを立教大学は心より歓迎いたします。
立教大学は、1874年にアメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教によって、東京築地の外国人居留地にわずか数人の生徒に聖書と英学を教える私塾として創設され、現在では学生数2万人、校友数20万人に上る大学へと発展しました。その一つに立教セカンドステージ大学があるのです。特に、立教セカンドステージ大学は入学資格が50歳以上と、その対象者をシニアの方に限定しています。これは単に生涯学習を学ぶ場ではなく、人生のセカンドステージにおいて受講生が「自由な市民」としての生き方を自らデザインできるようにサポートすることを教育理念としているからです。
昨年日本政府は、人生100年時代構想を提唱し、人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行うため、「人生100年時代構想会議」を設置しました。その中間報告の冒頭で、「我が国の長寿社会はどこまで進んでいくのか。ある海外の研究を基にすれば、「日本では、2007年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きる」と推計されており、我が国は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えている。こうした人生100年時代においては、人々は、「教育・仕事・老後」という3ステージの単線型の人生ではなく、マルチステージの人生を送るようになる。また、長い人生を通して自分の家族を支えなければならないため共働き世帯が増えるなど、家族の在り方も変化していく。100年という長い期間をより充実したものとするためには、生涯にわたる学習が重要である。スポーツや文化芸術活動・地域コミュニティ活動などに積極的に関わることも、個人の人生や社会を豊かにする。
こうした「超長寿社会」を世界に先駆けて迎える日本において、単線型ではない、多様な「人生の再設計」をどう可能としていくか。教育や雇用制度、社会保障など、国の制度はどうあるべきなのか。これこそが、本構想会議が人生100年時代を見据えて考えなければならない大きなテーマである。」と日本社会の将来を展望しました。
立教セカンドステージ大学は、こうした日本政府による人生設計の10年以上前に、日本社会の将来を見通し、「自由な市民」としての生き方を自らデザインできるようにサポートすることを目的に設立されました。
まさに立教セカンドステージ大学は、人生100年時代を見越して、単に余暇と趣味の時間を提供するのではなく、新たな社会を構成する重要な世代に、これからの人生に対するビジョンと生きがいを持ってもらい、今まで以上に充実した人生を構想し歩んでもらおうという考えから設立されたのです。従って、世の中に広がっている市民文化講座のような趣味や一般的な教養を身につけてもらうものではなく、より主体的、能動的に授業に参加し、皆さんが持っている潜在能力・可能性を見出し、今までの経験と知見を日本社会ならびに世界の発展のために役立ててもらうことを願っています。ですから新入生の皆さんには、今までの経験を生かしながら、時にはその経験を忘れ新たな分野にチャレンジしてほしいと思います。
小説家であり天台宗の尼僧である瀬戸内寂聴氏は、「生きるということは、死ぬ日まで自分の可能性をあきらめず、与えられた才能や日々の仕事に努力しつづけることです」と説いています。人間の能力の発現は何歳になっても可能であり、それを追求する姿勢さえあれば成長し続けることができるということです。自らの可能性を信じ努力し続ける姿勢こそ、立教大学で学ぶすべての学生に堅持してほしい姿勢です。それを体現し実行しているのが立教セカンドステージ大学だと言えるでしょう。まさに立教セカンドステージ大学こそ立教大学の誇りなのです。受講生の皆さんには、そのような自覚を持って学生生活を満喫してほしいと思います。
もう一つ、立教セカンドステージ大学の皆さんにはお願いがあります。それは人生の先輩として学ぶ楽しさ・姿勢の大切さをすべての学生に伝えてほしいということです。立教セカンドステージ大学の特徴の一つは、「異世代共学」です。これから皆さんは、立教セカンドステージ大学の科目だけではなく学部の授業も履修することができます。それは学部学生と肩を並べて、授業を受講するということです。その時、受講する姿勢や学ぶことの大切さを、身を持って大学生に見せてほしいのです。それを見た学生は学ぶことの大切さを再認識し、学びは一過性ではなく、一生にわたって行うものだということを実感することでしょう。
言い換えれば、皆さんは立教セカンドステージ大学の学生であると同時に、立教大学の教師でもあるのです。
また立教セカンドステージ大学の学びは、在籍中だけではありません。大学を終了後も、多くの修了生はセカンドステージに役立つ調査・研究活動や社会的に意義のある活動を自主的に行っています。さらには、修了生の親睦を深めるために同窓会や、研究会、同好会があり、自主的に活発な活動を行っています。要するに、立教セカンドステージ大学で学んだ多くの受講生は、その後も継続して学び続けるのです。
先ほど、人生100年時代といいましたが、これからの日本社会は物欲を満たす量的成長社会から価値観や生活のあり方に重点を置く質的成長社会に入りつつあります。言い換えれば、成熟社会に入りつつあるのです。Gábor Dénesによると、成熟社会とは「大量消費社会のかわりに、高水準の物質文明と共存しつつも、精神的な豊かさや生活の質の向上を最優先させるような、平和で自由な社会」であり、その目指すところは、「消費社会の不毛と倦怠の克服であり、知能偏重から知能と倫理の調和であり、善意と幸福を周囲に広げる人間の形成であり、強制と支配ではなく自由と責任と連帯の拡充であり、多様な個性と価値観を尊重し許容する寛容な民主的社会の実現」とされています。
立教セカンドステージ大学の目指す目的とそこでの学びは、正に成熟社会へのテーゼであり、それを実践する場だと言えるでしょう。
成熟社会という未来への挑戦。これは立教セカンドステージ大学にかかわるすべての教職員、学生に課せられた使命なのです。ですから皆さんには大学生以上に大きな使命があることを理解して頂き、新たな学生生活を満喫して下さい。
最後になりますが、改めて新入生の皆さん。入学おめでとうございます。