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吉岡学長(立教大学総長)による式辞

立教セカンドステージ大学新入生の皆さんへ(2016年度入学式)

2016年4月2日
立教大学総長
立教セカンドステージ大学学長
吉岡知哉


立教セカンドステージ大学は、この春、本科生99名、専攻科生45名を、新入生として迎え入れます。
新入生のみなさん、入学おめでとうございます。

「立教セカンドステージ大学規則」はその第1条で、本学の目的を、次のように定めています。
「立教セカンドステージ大学は、シニア層の人たちがセカンドステージの生き方を自らデザインできるよう、立教大学の建学の精神に基づいた教養の修得を基礎に、「学び直し」と「再チャレンジ」をサポートする生涯学習の場である。」

年齢50歳以上というユニークな資格制限も、この目的の為に設定されているものです。
ここに列席されている新入生の皆さんは、1966年3月以前に生まれ、既に半世紀以上の人生を送ってきた方々ばかりということになりますが、一言でシニアと言っても、年齢には大きな開きがあり、今年の新入生は50歳から83歳までで構成されています。しかも日本と世界のこの1世紀は、激しい変化の時代でしたから、1、2年の年齢差が、大きな経験の差になっています。したがって、新入生の皆さんを「シニア」という言葉で一括りにすることには、そもそも無理があると言うべきでしょう。

日本の大学生の大部分は18歳から22、3歳で構成されています。年齢差はせいぜい4、5年です。
ちなみに、今年の大学新入生は、1998年3月以前の生まれですから、生まれたときに既にバブルはとうの昔に崩壊しており、それ以来現在に至るまで、経済成長というものを経験したことのない世代に属しています。

そのように考えると、立教セカンドステージ大学は、極めて多様な年齢層が集まる場であり、豊富な経験や考え方が蓄積されるところであると言うことができます。
皆さんの多くは、これまでの社会生活を通じて、先輩から教えられたり、後輩を指導したりした経験をお持ちでしょう。しかし、20歳以上も年齢が違う人々が、同期の仲間として机を並べて授業を聴き、共に調査をしたり議論をする場に自ら参加した経験はまずないのではないでしょうか。
その意味でも、立教セカンドステージ大学は、これまでに皆さんも経験したことのない、新しい学びの場となるに違いありません。

さて、それでは、立教セカンドステージ大学が掲げる「学び直し」とは何でしょうか。
恐らく皆さんは今、大学時代に勉強しようと思って手をつけることができなかったり、中途半端な状態で放棄してしまった分野、例えば哲学とか経済学、あるいは古典文学をもう一度勉強しようと意気込んでいるのではないかと思います。
確かに、学生時代はあまり興味が湧かなかったり、必要とは思われなかった知識や分野が、社会に出てみると実は重要であると気づくことはよくあります。これまでは忙しくて手をつけることができなかった勉強を、ようやく本格的に始めるには、立教セカンドステージ大学は絶好の機会であり、わが国はもちろん、おそらく世界でも屈指の大学図書館を持つ立教大学のキャンパスは、そのための最適な環境であることに間違いはありません。

欠けている知識の穴を埋めること。これまで身につけていなかった新しい知識を獲得すること。それは確かに「学び直し」にほかならないでしょう。
しかし、立教セカンドステージ大学は、「学び直し」という言葉にもう少し違うニュアンスを込めています。

経験を積み、知識を増やしていくことは確かに楽しいことですし、重要なことです。しかし、経験が積み重なり、知識が増えていくことは、いわば一種の自然のプロセスです。そのプロセスの中にいる限り、自分自身はその必然的な進行の中に位置づけられることになります。

人間の知性にとってより大切なのは、このように自然のプロセスを先に進むだけではなく、歩んできた道筋を戻りながら、経験が積み重ねられていく過程、知識が増えていく過程それ自体を確認する作業です。その作業を通じて、私たちは、自分の経験や知識が、全体の中のどこに位置づけられ、どのような意味を持っているのかを検証し、経験と経験、知識と知識、そして経験と知識を関係づけることができ、そこからそれまでとは異なる、新しい経験と知識への道を見いだすことができるようになるのです。

この作業にとって不可欠なもの、それは言葉です。
自分の知識や経験を言葉によって表現することを通じて、個人的なものであった知識や経験が他者との共有財産となります。それによって、後から来る者たちのために、自分が歩んだ道を示すと同時に、自分自身が世界の中でどのような位置にいて、いかなる役割を負っているかが理解されることになるのです。
その意味で、「学び直し」とは、自分の言葉を磨き直すことであり、その過程で、「自分自身を知る」ことでもあると言えるでしょう。

このように「学び直し」を、「行って帰って来る」という往復運動の過程と考えると、「再チャレンジ」という言葉の意味も、単に自分のために、自分の関心に沿って、もう一度挑戦する、ということを超えた意味合いを持つことになります。50歳を超えてからの「再チャレンジ」は、自分の知識と経験を共有財産として人間社会に還元していく過程であると考えるべきなのです。

新入生の皆さん
立教セカンドステージ大学は、2008年に設立され、先月第8期の本科卒業生を送り出したばかりです。しかし、その背景には、1世紀半に及ぶ立教大学の歴史があり、立教大学が受け継いださらに長いリベラルアーツの伝統があります。立教セカンドステージ大学は、このリベラルアーツの歴史を受け継ぐものであり、リベラルアーツの現代的再構築という大きな課題の一環をなす試みなのです。
新入生の皆さんが、私たちとともにこの課題に取り組みつつ、楽しく充実した学生生活を送られることを祈っています。

入学おめでとうございます。

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